注意:『タイド』『エス』のネタバレはないが、『ループ』までのネタバレはある。
貞子をホラーヒロインの代名詞にした名作『リング』
98年に映画は流行し、ホラーブームを巻き起こした。
恐怖映像には呪いのビデオと枕詞がつけられ、
髪が長く顔が見えない様を貞子と形容するのは、『君に届け』や『ガンツ』でも言われているように定番になった。
数年前にも貞子の映画が公開されるなど、モンスターとしての地位は確立されだ。
一方、そのもてはやされたモンスター性が彼女を安っぽく子供が好む幽霊然とさせてしまったことは否めない。
しかし、リングの原作はホラーとは別のジャンルになっている。
それはまだリングブームの真っ只中に出版されたリング三部作の最終巻『ループ』ですでにそうなっていたのだが、多くのホラーを求める人たちにはあまり流行らなかった。
ジャンルで言えば、完全にSFだ。
リングの続編である『らせん』は、呪いにDNAや医学、科学の要素を入れたサスペンスになっている。
最終巻の『ループ』は、リングが繰り広げられていた世界はコンピュータ内の仮想現実で、シミュレーション内の貞子が発症のウィルスが現実世界にも波及しているなかで人類存続をかけて戦うSFになっている。
だいぶ前に読んだので記憶が曖昧だが、だいたいシリーズは以下のように展開してきた。
リングで、呪いのビデオの謎を解く主人公の一人高山竜司(演:真田広之)は最終的にビデオの呪いで殺されてしまう。
らせんでは、現世に復活を果たした貞子の手により、高山竜司は復活を果たし、貞子の人類滅亡せんとする陰謀の相棒をするかのように終わる。
そしてループでは、リングらせんの世界(仮想現実)で死んだ高山竜司の遺伝情報を元に現実世界で複製し生まれた二見馨が自身の出生の謎と、仮想現実をシミュレートしているシステム「ループ」の存在から、現在人類を滅亡の縁に追いやっているウィルスの謎にせまる。 最終的には現実世界に妻子を残し、現実世界で肉体的の死と引き換えに遺伝子と意識をすべて情報に変換し仮想現実もどった。仮想現実でのリングウィルス根絶と現実世界のウィルスの根絶をするために高山竜司として復活する。これが「らせん」で高山竜司が復活した経緯となっている。
そしてその後はどうなったのか…
短編集はあったけれども(未読でスマン)シリーズとしては仮想現実のコンピュータ・ウィルス貞子の退治がどうなったのかわからないままであった。
『エス』は2012年に発売された、リングの世界の20年後くらいあとの話である。
『タイド』は2013年に発売され、先日文庫版が出たばかりの本で、話としては高山竜司が復活して数年後の話。
貞子がどのように人類を滅亡させようとするのか、そして高山はどのようにそれを阻止するのか、ループのすぐ先にある話である。
面白いのは、高山自身は自分は復活し上位世界での前世の記憶、貞子に殺される高山竜司としての前前世の記憶はそれぞれ朧気に覚えており、特に自身はこの世界とは違う上位の世界から降臨したという意識もある。
ただ、上位世界と自身が復活した世界との関係は忘れたのか理解しておらず、仮想現実であるということはあまり言及されていない。
本人は上位の世界よりきた稀人としての自意識があり、日本の信仰、神話、精神世界などの言及が多くファンタジー的な雰囲気もある。
『タイド』では、今まで明かされていなかった事実が新たに出てくる。
貞子は復活を再度復活を企図し、高山は失われた記憶をたどり自身の秘密にたどり着く、
『ループ』により世界の構造が種明かしされてしまったあとでも、サスペンスとして日本ファンタジーとして面白くできている。
『エス』はタイドより未来の話が描かれていて、高山竜司がその時どのような状況なのかをしっていると
タイドを読むにつれ展開がどうなるのか非常に気持ちをザワザワさせてくれる。
タイドを読むと、エスのプロローグのように感じるし、
エスはエピローグのように感じる。
その真ん中の本編、非常に重要なところが書かれることを期待している。
リングはただの貞子というモンスターの話ではなくなった。
高山がどのように生きどのように死に、そして再びどのように生きるのか、二回死んだ男の悲しい半生記(三回人生あったから三生記か)なのだ。